2019年3月28日木曜日

夢見話〜無料のトイレシャワー〜

〜たまに驚くほど鮮明な夢を見る事ってないですか?
特に明け方付近。それを文章で記録しておこうというコーナーです〜


ここは駅の改札口を出てすぐの公園にある公衆トイレに併設されたシャワー室。数年前から浮浪者やホームレスの人が使用できるようにと行政が設置したものだ。
とは言えこの辺りはあまりそういった人がいないので、使っている人は滅多に見かけない。

なぜだか僕はしばらくの間、ここのシャワーにお世話になる事になった。
とは言え、あてもなくずっとここにいる訳ではなく、ある事情があって一時的に使用しているだけなので、特に惨めな思いをする事はなかった。むしろ初めて使う設備なので、妙に楽しみなくらいだった。
それはあくまで“自分はホームレスなどではなく、訳あって今だけ使用しているのだ”という心持ちがあってこそだった。

とは言え、側から見たらこの設備を利用している人はあまり普通では無い。なぜならこの設備はシャワー室とは言えど何の仕切りもなく、男子トイレの小便器の並びにそのまま設置されているだけなのだ。排水口もトイレの床掃除をして流すそれと同じである。
用をたす人達と並び、そこで全裸になってシャワーを浴びるのだから、およそ普通の人がする事ではない。
さすがにそこに対しての恥じらいの気持ちがあり、僕はトイレを利用する人がいなくなる時間帯を狙ってシャワーを浴びていた。

ところが、その日は利用時間を見誤ってしまったようだった。全裸になりシャワーを浴び始めたところ、外から続々と人の気配を感じる。
しまった。この時期は観光シーズンだった…

いかにも外出時と言った小綺麗な格好をした男性が入って来た。30代後半だろうか。その奥さん思しき女性が外から男性に話しかけに来た。きっとお揃いでカナダグースのダウンを着て、二子玉川か武蔵小杉周辺の真新しいマンションに住み、子供の送り迎えにも小綺麗な格好をしている…ある意味で都会に住む一般人の中では勝ち組と言われるような、そんな夫婦だろう。

その奥さんと全裸の僕の目が合った。だが、恥じらう素ぶりや驚いた様子は微塵も無い。
そう、おそらくここでシャワーを浴びるような人間とは住む世界が違い過ぎて、視界に映らないのだ。彼女にとって僕は、同じ人間ではないのだ。


今度は若者三人組の気配がした。
いかにも今時と言った様子の男の子二人と女の子一人人だ。さすがに恥ずかしくなってきた僕は急いでシャワーを浴び終えて着替えた。服を着て、髪の毛をしっかりセットすれば、さっきまでトイレの無料シャワーを浴びていたとは思われない自負はあった。

公園を出ると外は予想以上の大都会と人混みだった。

するとさっきの若者3人組のうちの男の子一人が、嬉しそうに声をかけてきた。見た目はK-1でお騒がせの芦澤選手にそっくりだ。

「お兄さん、こないだ一緒の台で打ちましたよね?」

そう言って彼が指を指した先には、光り輝く巨大なビルがあり、そこはパチンコやカラオケなどが様々入った複合アミューズメント施設のようだった。

僕はパチンコをやる習慣が無いので、「あ、それ人違いかな。」と気の無い返事をした。

すると、「そうっすか。」と言って、そのビルに入って行った。すると残りの男女二人も後から続き、「やっとカラオケできる〜」と言っている。

僕がそのビルを横目に歩き出すと、妙だ。
その男女二人が、「やっぱカラオケは後にして街歩きしよ〜」と言って僕の後ろをついてくるのだ。
明らかに絡もうといる感じがした。

だが不思議と悪意は感じなかったので、僕はそのまま歩いた。二人の会話はわざとこちらに聞こえるように話しているようだった。

「五反田の方向かったら何かあるかな〜?」

僕はたまらず呼応するかのように二人に話しかけた。


「五反田の方行っても何も無いから、街歩きだったらこっち向かって恵比寿の方に行った方がいいよ。」


その話ぶりは、僕が出来うる限りのクールを装っていた。なぜなら僕ははさっきまで全裸で公園の無料トイレシャワーを浴びていた男なのだ。

おそらくそのシーンを見られていたが故に、そのイメージを払拭すべくとった態度が、それだった。

つまりは、最高にカッコつけたのだ。


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