2023年3月28日火曜日

俺の腰道具

電気工事士を辞めた話はすでにしたのですが、そこからちょうど約二年。只今、元職場のアパレル店舗の閉店とオープンを控えており、撤収作業のバイトをしているのですが、そこで電気工事士の時の工具とその前の職業訓練校の経験が活かされました!

インスタにも上げた文章なんですが、せっかく書いたんでこちらでもどうぞ。笑



朝5時に起きて、6時に会社着。そこから社用車に乗り換え、先輩達と共に現場へ。8時から朝礼が始まり、午前の作業開始。10時に一服。作業が再開して12時に昼ご飯休み。1時から午後の作業が始まり、15時に一服。作業が再開して17時に終了。会社に戻り解散して、帰宅するのは19時頃。
作業内容は見習い職人だったので基本雑用全般。たまに電気工事的な作業を手伝うも、知らないし慣れない事ばかりだったので、まぁ怒られる怒られる。

これが僕の毎日だった。これを月〜土まで繰り返し、休みは日曜のみ。心身ともに疲れ果てていた僕に日曜を楽しむ余裕などなく、ぐったりと過ごして夕方になればもう「また明日から一週間が始まるのかぁ」と憂鬱な気持ちになった。

それでも、そんな中にささやかな楽しみがあった。それは帰宅途中にハードストックという工具資材専門店に寄って工具を買い、腰道具を充実させていく事だった。日当で一万円にも満たなかった僕は一気に買い揃える事など出来ない。だから少しずつ買い足していくのが楽しみだった。仕事は辞めたいと思っていたくせに、なぜかこれは楽しみだったのだ。

毎日朝起きた瞬間から辞めたいと思って出勤していたので、しんどいエピソードは山のようにあるのだが、笑「自分は今後ずっとこの世界でやっていくのか…」という閉塞感を感じる事が一番キツかった。

ここからはそんなエピソードをひとつ。

僕の派遣された現場は大手ゼネコンが元請けだったので、毎日必ず朝礼が行われていて数多の業者が広場に集まり、最後に「今日も一日頑張ろう!おう!ご安全に!」と掛け声を上げて散っていくのが通例だった。
そんな朝礼開始の15分くらい前には自分の会社と関係者が集まる場所に行き、朝礼が始まるのを待つのだが、その間がなんとなく雑談する時間でもあり、中でも身に付けてる腰道具についての話が多かった。
ちなみに工具を入れる腰袋にはランクがあり、最終的に目指すところはknicks(ニックス)と言う高級ブランドで、ギターで言えばギブソン。これは最低でも日当で一万円後半くらいからの中堅職人以上でなければ身分不相応なシロモノだ。当然見習いの僕にはそんな物はほど遠く、電気工事では入門的なデンサンで揃えた。ギターで言えばフェルナンデス。いい、これでいいんだ。ただ、元アパレル店員としてのささやかながらの主張で、色だけは合わせようと思い、デンサンの腰道具に合わせて安全靴も黄色と黒のカラーリングで統一していた。笑

ある朝、そんな雑談時間に自分の会社関係者の中で一番のベテランで村長のような電気工事職人が、ついに僕の事について触れてきた。「オマエは黄色と黒で統一してんのか??」村長の一言だけに周囲にいたみんなが僕に注目している。見習いの僕に初めて訪れた瞬間だった。「ここしかない。作業では出来ないからこそ、ここで一発かましてやる。」そう思った僕は、渾身の返しを思いついた。

「ハイ!電気と言ったらピカチュウっすからね。黄色と黒で統一しました!」

…そこに居合わせた誰一人、くすりとも笑わなかった。

これが職人の世界なのか…
この世界で俺はやっていけるのだろうか…

そう思った瞬間のひとつだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿